緊急提言:上場企業の取締役会のあるべき姿
2011年11月21日
関係各位:
緊急提言:上場企業の取締役会のあるべき姿
全国社外取締役ネットワーク
代表理事 田村 達也
日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム
共同理事長 落合 誠一
共同理事長 北城恪太郎
日本コーポレート・ガバナンス研究所
代表理事 若杉 敬明
上場企業の不祥事が相次いで露呈し、日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の不備が厳しく指摘されている。大きな原因は取締役会が本来の機能を果たさなかったことにある。日本企業が信頼を取り戻すためには、国際的にも説得力を持つコーポレート・ガバナンスの再構築、とりわけ取締役会の抜本改革が急がれる。
私たちコーポレート・ガバナンス関連3団体は、以下の通り、規制当局に取締役会の監督機能の強化に関する対策を講じることを要請するとともに、すべての上場企業に投資家から信頼される実効性あるガバナンス態勢を構築するよう強く求める。(この緊急提言は、上記3団体が共同で作成し、本年10月19日に法務省民事局長宛てに提出した、会社法制改正に関する「意見書」を踏まえて作成された)
- →「意見書」は旬刊商事法務2011年11月15日号に全文掲載されています
独立取締役の義務付けと取締役会の監督機関化
現代企業のコーポレート・ガバナンスにおいては、経営者(CEO)が業務執行を担い、取締役会がその監督を行う分業体制がグローバルに浸透している。しかし、日本の上場会社の大多数を占めている監査役会設置会社では、取締役会が重要な業務執行の決定機関であるとともに監督機関でもあるという二つの側面を有しているうえ、その実態としては前者の比重が大きい企業が多くを占めている。
コーポレート・ガバナンスを強化するには、取締役会を監督機関として明確に位置付けなければならない。内部者が内部者を監督するのでは実効性は期待できない。独立性のない社外取締役では期待される監督を果たすことは難しい。それゆえ、経営者から独立した立場の社外取締役(以下、独立取締役)が一定数導入される必要がある。ここでは独立性の定義にまでは立ち入らないが、経営陣からだけでなく特定の株主やステークホルダーからの独立性も確保されなければならない。
また、CEOをはじめとする会社関係者は、重要な意思決定を行う際に監督機関である取締役会の判断を仰ぐ姿勢が求められる。独立取締役は会社の実情に必ずしも精通していないことを配慮し、判断を下すうえで必要な情報を適切なタイミングで提供しなければならないことは論を待たない。監督機関としての実効性を伴うためには、独立取締役が入った取締役会を構築した段階で、日々の業務執行案件は可能な限りCEO以下の執行部に権限を委譲する必要がある。
独立取締役選任の仕組みの整備
取締役会の監督機能を強化するためには独立取締役の存在が必須だが、監督の実効性を確保するためには、形式を整えて、人数をそろえれば済む、という問題ではない。現行、多くの上場企業において、社外取締役はCEOらによって選ばれているという現実がある。監督される者が監督する者を選ぶという構図である。独立取締役が監督機能を発揮するためには、独立取締役の選任にはCEOらが関与しないことが重要で、すでにガバナンス先進国ではそのような仕組みが導入されている。
ルール改正と企業の自発的な取り組み
①独立取締役の義務付け
【会社法改正】
監査役会設置会社については、次のいずれかの方式で独立取締役を導入することを義務付ける。なお、ここで言う独立委員会(仮称)は、委員会設置会社における指名委員会と報酬委員会の機能を有する委員会を意味する。
- a.取締役会の過半数を独立取締役で構成する。
- b.独立取締役を過半数とする取締役のみで構成される独立委員会を設置し、この委員会に取締役候補者の選定、取締役の報酬の決定に関する権限を付与する。
委員会設置会社については、社外取締役を独立取締役に置き換え、指名、報酬、監査の三委員会の過半数を構成する。
【上場会社の自発的な取り組み】
法改正が行われるまでの間は、監査役会設置会社では、独立性の高い社外取締役を自発的に選任する。委員会設置会社では、法の趣旨に沿った運営がなされているか見直す。
②取締役会の監督機関化(監督と執行の分離の徹底)
【会社法改正】
監査役会設置会社においても委員会設置会社と同様、取締役会の決定事項を大幅に減少させ、CEOらに権限を委譲する環境を整える。
【上場会社の自発的な取り組み】
法改正が行われるまでの間は、監査役会設置会社においては、任意の執行役員制度を活用し、執行役員に可能な限りの権限移譲を行う。委員会設置会社においては、制度本来の趣旨に沿った運営がなされているか見直す。
③独立取締役選任の仕組みの整備
【会社法改正】
①の独立取締役の義務付けで示した内容は、独立取締役選任の仕組みを整備することにもつながる。独立取締役が過半数の取締役会、もしくは独立取締役が過半数の独立委員会で独立取締役の候補者を選任することで、CEOの過大な介入を防ぐことができる。
【上場会社の自発的な取り組み】
法改正が行われるまでの間は、監査役会設置会社では、まず独立取締役を招聘し、任意の指名委員会を組成して、主に独立取締役候補者の選任について取締役会に提案、答申する。委員会設置会社においては、独立性の高い社外取締役を登用し、指名委員会においてCEOの影響力が過大にならないように運用する。
本提言の主張は、①社外取締役ではなく独立取締役が必要であること、②独立取締役が義務化されるに伴い取締役会を監督機関に位置づけるために監督と執行の分離を徹底すること、さらに③真の意味での独立性を確保するために独立取締役の選任についてCEOの影響力を低減させるという三点であり、これらはセットで行われなければならない。
しかし、以上のようなルール改正、各企業の取り組みがなされたとしても、これらは形式的なものに過ぎない。実効性を伴わせることが重要であり、上場会社の取締役会が監督機関であることを、CEOをはじめとする執行部、監督機能を期待される独立取締役の双方が理解する必要がある。
今後は、そのための教育活動、人材育成など、コーポレート・ガバナンスを取り巻く環境が整っていくことが期待される。本提言を提出する3団体は平成24年1月を目途に合併し、「日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク」として、この問題に積極的に取り組んでいく所存である。