HOME > 日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム活動履歴
94年10月、有志数名が東京・築地の浜離宮朝日ホールでコーポレート・ガバナンスのシンポジウムを開催した。テーマは「会社はだれのために」で、基調講演や学術報告、パネル討論など盛りだくさんの内容のイベントに、一般企業人を中心に300人が集まった。個人の資格で聴講されたメルシャンの鈴木忠雄社長(当時)には、その後のフォーラム発足に際して助言役を務めていただくこととなる。
基調講演者はボランティアとして駆け付けてくれた城山三郎氏。演題は「私の知った経営者たち」で、鈴木商店を総合商社に発展させた金子直吉、倉敷紡績を経営するかたわらマルキシズム研究の拠点ともなる大原社会問題研究所を作った大原孫三郎の両氏を取り上げた。その要旨は95年の中央公論に収載されている。
94年11月、発起人や参加者有志から継続的な活動を求める声が上がり、第1回会員総会を開催。研究者と実務家の緩やかな集合体としての「日本コーポレート・ガヴァナンス・フォーラム」の発足が決まり、中村金夫、奥島孝康両共同理事長のもと規約や役員構成などが決まった。翌年1月には「米国のガバナンス事情」をテーマに第1回セミナーが開催された。(フォーラムの正式名称は、後に一般的な表記に合わせて「日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム」に変更される)
新組織は産学協同を掲げ、日本の国際競争力に直結するガバナンスの強化を目指した。会社法を中心に経営学、会計学、社会学、労働法などにまたがり、実務の側も経営者、機関投資家、一般株主、弁護士、公認会計士など幅広い領域を包摂することから、特定の研究領域の視点にとどまらない運営を続けている。
設立趣意書の要旨は以下の通り。
「本会の基本理念として『学際性』『産学協同』『国際性』を挙げることが出来ます。この三つの理念は、本会の目標を実現するための道しるべでもあります。本会は以上のような目的と方法論とを旨とし、コーポレート・ガバナンスにまつわる有効な政策提言を行っていくと同時に、新しい学会の可能性を拓くモデルのひとつになりたいと願っています」
年次大会
95年11月に第2回年次大会を開催。テーマは〈コーポレート・ガバナンス論の現在とその可能性〉。その後、秋から冬に年次大会を開催することとなる。テーマは、毎年の関心事を映しており、商法改正、エンロン問題、金融危機、会社法など多岐に及ぶ。学術報告を中心としたセッションも設けて2日構成にしたり、日中韓のガバナンス比較研究のように海外の講師を招いたりする試みも見られる。当初は、コーポレート・ガバナンスの概念そのものが定着していないうえ、「日本的経営」の優位性を堅く信じる経営者も少なくない時代で誤解も少なくなかった。日本流の経営者の居心地を悪くする米国の経営戦略といった皮相的な警戒論が根強く広がっており、それを解くために競争力への貢献や社会変化への対応という視点からガバナンスを取り上げ、社会の理解を深めようと腐心した。そのことが、年次大会のテーマに見られる「可能性」「社会」「合意」といった文言からうかがえる。しかし、90年代後半からは啓蒙的な性格は薄れ、国際的な視点で捉えられるようになる。
勉強会
年次大会と並ぶ活動の柱が勉強会である。発足から5年ほどの間は不定期の催しだったが、会員の強い要望に応え、99年3月以降は3カ月程度の間隔を置き定期的に開催されるようになった。その後の激動を示すようなテーマ、講師も少なくない。なかでも99年6月の第2回勉強会に通産省の現役官僚であった村上世彰氏が登壇し、敵対的買収とガバナンスを語っているのは興味深い。その後の村上ファンドの活動を暗示するような内容だった。提言活動
単なるガバナンスの研究団体にとどまらないフォーラムの特徴を示すのが3度に渡るコーポレート・ガバナンス原則の策定である。初代の共同理事長であった中村金夫・日本興業銀行元会長の発議で取り組んだもので、98年5月の旧原則に始まり、中村氏が急逝された後も活動は続けられた。その成果は01年10月の改訂原則を経て、05年の新原則に結実する。旧原則は日本でのコーポレート・ガバナンスの定着をめざしつつも、当時としてはかなり挑戦的な内容となった。監査役制度を前提とする商法の抜本改正などは期待できないと思われていたため、直ちに実行できるA原則と将来の法改正を待つB原則に分けることで原則全体の整合性を保つという苦肉の策がとられた。監査役制度の見直し、社外取締役の活用という方向性が明確なことから、米国最大の公的年金であるCalPERS(カルパース)が公表した日本向けガバナンス原則の冒頭には、JCGFの原則を参考にするように明記されていた。
ただ、理念が先行した面もあり、商法の抜本的な見直しが視野に入ってきたなかで進められた改訂原則では社外取締役が中心となった委員会制度の導入を強く提唱し、その構成についても詳しく述べている。この改訂原則は、委員会等設置会社の導入が盛り込まれた改正商法にも影響を及ぼしたとされる。また、新原則は企業でのガバナンス充実への指針となることをめざし、社外取締役の拡充という基本線は維持しつつも、現実の経営問題にも配慮した。CSRとガバナンスの関係や敵対的買収時の対応にも言及している。
出版活動
年次大会の内容を中心に編集される年報のほか、ガバナンスの潮流を伝える出版活動も幅広く展開したJCGFフォーラム有志の無報酬の活動で生まれた著作物ばかりだが、なかでも2001年に出版された『コーポレート・ガバナンス-英国の企業改革-』(商事法務研究会 )は世界的に著名な英国のガバナンス原則を網羅した基礎文献として知られている。国際活動
国際性を重視する基本方針から、毎年の国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN、本部・ロンドン)年次総会には、大楠事務局長や運営委員の有志が参加している。01年7月に3日間にわたって開かれた東京大会には、JCGFも東京証券取引所などとともに共催団体として名を連ねた。ICGNは世界のガバナンスの流れをつかむ格好の場であり、日本を代表する組織としてJCGFのメンバーが理事に選任されている。現(2011年)理事は高山与志子JCGF運営委員。大楠泰治JCGF事務局長も理事の経験がある。